ママになりたい…!不妊にやさしい社会へ。

2022_03_不妊にやさしい社会へ。

子どもが欲しいと思っているのに
なかなか授からないカップルは案外多い。もしかして不妊?
そんな悩みを抱えながら
不妊治療に一歩踏み出そうとしているカップルと
そんな二人の周りにいる方は不妊に対する正しい知識や
理解を深める必要があります。
また、最近では不妊治療に対する自治体の様々な取り組みを
耳にします。このような変化していく「不妊」を取り巻く
社会についてもご紹介します。


【医師に聞く】“不妊”と“不妊治療”の実態

「不妊症」とはどういう状態を指すのか、そして「不妊症」の人は一体どのくらいいるのか。
そうした現状を踏まえ、不妊治療の最前線に立つ絹谷産婦人科の絹谷正之先生にお話を伺いました。
絹谷正之院長


不妊症とその割合

妊娠を望む健康な男女が通常の性交(週に1回程度)を行っているにも関わらず、1年間妊娠しない場合、不妊と定義されます。以前は日本では2年間と定義されていましたが、それだと不妊治療の開始が遅れる可能性があることと、晩婚化・晩産化により子どもを望む人の年齢が高まっているため1年間となりました。世界的にも1年間と定義している国がほとんどです。
不妊症の割合については、これまで10%程度とされてきましたが、現在では6組に1組のカップルが不妊であると言われています。これは社会背景と関係し、多くのカップルが20代前半で結婚していた頃は妊娠できるカップルも多くいましたが、近年では、妊娠する機能が低下してきた30代で結婚する方が増えてきたためと考えられます。つまり分母の状態が異なってきており、2年間→1年間の定義によってその割合も高まっているのです。また近年、子宮筋腫や子宮内膜症を合併しているケースや、性感染症のクラミジアに感染しているケースも増えており、これらも不妊の原因となります。
一方、妊娠はできても流産を繰り返す不育症という症状もあります。初期流産を2回以上繰り返された方、妊娠中期以降の子宮内胎児死亡を1回でも経験された方は検査をおすすめします。


男性の不妊について

「自分に原因があるのでは…」と悩み来院される女性は多いですが、4割〜5割という高い割合で不妊の原因は男性にあることがわかっています。精液の中の精子数が少ない乏精子症や精子の運動率が低い精子無力症、精液中に精子がいない無精子症などがあり、これらは検査でしか明らかにすることができません。他にも、射精ができない射精障害や、精管が詰まってしまい精子が出て来られない閉塞性精路障害の場合もあり、男性の不妊にも様々な原因が考えられます。
だからこそ、パートナーと一緒にできるだけ早めに医療機関を受診されるのがおすすめです。女性の検査や治療は月経周期に合わせて行わなければならず、通院の回数も増えてきます。しかし男性の精液検査は簡単に、しかもいつでも実施することができます。万が一男性側の精子が作られていない場合、いくら女性側の検査をしても意味がありません。ですから不妊検査は揃って受けることが望まれます。


不妊治療の進歩

タイミング指導、人工授精、排卵誘発といった一般不妊治療は、昔に比べその検査法・治療法に大きな変化はありませんが、約40年前に始まった高度生殖医療は、日進月歩の進化を続けています。
卵子と精子を体外に取り出し受精させ、子宮に戻す体外受精は、受精しない場合には顕微鏡で見ながら精子を卵子の中に注入し受精させる顕微授精を行えるようになりました。また、胚の培養も着床する間際の胚盤胞まで長く培養できるようになっています。最近では、胚盤胞の一部の細胞を用いて着床前診断を行う臨床研究も進んでおり、これにより流産を防ぐことができれば、妊婦さんの精神的・身体的な負担を軽減することが期待されています。


不妊に悩む方へのメッセージ

不妊治療に踏み出すことをあまり大変だと思わないでください。ほんのちょっとしたことで妊娠できる方はたくさんいらっしゃいます。例えば、排卵誘発剤などの軽い薬物療法で妊娠できることもあれば、甲状腺異常があると妊娠しにくいため、それを薬で改善するだけで妊娠できることもあります。また、卵子の排卵後の寿命は短いので受精できるのは月に1度の半日〜1日ですが、精子は卵子と異なり3〜5日間と長く生きているため、性交は排卵日の3〜5日前でもいいのです。
こうしたことをぜひ専門家から聞いてほしいと思います。合わせて、いつが排卵日なのか、基礎体温はどうなのかと、まずはご自身の体に興味を持ってほしいと思います。自分の思っていたタイミングと排卵日がズレていただけで、妊娠に至らないケースもあるのです。ですからまずは気軽に一歩を踏み出してみてください。


もしかして不妊?そんな時は…『不妊検査と治療』

【1】まずは“検査”

不妊検査には、女性が受ける検査と男性が受ける検査があり、女性は、月経周期に適した検査を数回に分けて実施します。ここでは、基本的な検査方法を紹介します。


卵管通気検査
精子や受精卵の通り道となる卵管の通過性や働きをチェックする安全で副作用もほとんどない検査で、通常、痛みもありません。通気検査後すぐに妊娠する方も多く、通気を3~4回繰り返すうちに妊娠する方も少なくありません。
子宮卵管造影検査
造影剤を膣から子宮の内腔に注入して、レントゲン撮影を行い、子宮内腔の形や卵管の通過性、卵管周囲の癒着の有無などをみます。不妊原因について多くの情報が得られる、非常に有用な検査の一つです。
子宮鏡検査
細いファイバースコープを子宮頸部からゆっくり子宮内腔へと挿入し、子宮頸管や子宮内腔を直接観察する検査です。不正性器出血の原因、子宮頸管や内腔の癒着や隆起性病変の有無の確認、子宮内膜の機能を評価できます。
頸管粘液検査
精子は良好な頸管粘液には容易に進入し子宮腔内へと入っていけますが、頸管粘液が少ない場合や濁っていると入っていけず不妊となります。排卵頃の頸管粘液を採取し、量や色調、牽糸性、乾燥後の結晶形成などを観察します。
フーナーテスト
性交後試験とも呼ばれます。排卵日の頃に診察の前日夜または当日の朝に性交し、子宮頸管粘液中の精子の状態を観察する検査です。もしこの検査で全く問題がなければ精液検査を省略することもできます。
一般精液検査
男性因子による不妊を知る、非常に重要な検査です。精液量、総精子濃度、運動精子濃度、直進運動精子濃度、運動率、精子形態などを観察します。精液検査は通常は2~7日間の禁欲後に行います。特に危険性の無い検査なので、早めに受けるのがおすすめです。


【2】そして“治療”

ほとんどの場合、一般不妊治療で1~2年経過しても妊娠しない場合に体外受精、顕微授精へ移行しますが、卵管閉塞や無精子症では最初から体外受精を行うなど、個々の患者さんの状態に応じた治療を行っていくことになります。


タイミング指導
もっとも妊娠しやすい日時に性交するタイミングを医師が指導します。基礎体温や超音波、尿検査などを参考に排卵日を予測しています。
人工授精
排卵日に合わせて、濃縮密度勾配法によって精液を洗浄濃縮し、良好な精子を選別して直接子宮内腔にゆっくりと注入します。普通に性交するより妊娠のチャンスが増えます。
排卵誘発
排卵が無かったり、良質な卵が出来ないとき、その原因を確かめて原因にあった作用の穏やかな内服薬の少量投与から始めます。経過をみながら効果が不十分な時は増量や強力な排卵誘発剤へと進みます。
黄体ホルモン補充
不足した黄体ホルモン(プロゲステロン)を補充することにより、子宮内膜における受精卵の着床環境を整えます。
体外受精
体外受精ー胚移植とは、経膣超音波で見ながら経膣的に針で卵子を体外に取り出し、培養液の中で精子と卵子を受精させ、受精卵(胚)を子宮の中に戻す(移植)ものです。通常は排卵誘発を併用し、平均5〜10個程度の卵子が採取でき、受精卵のうち1個を選び移植します。余った受精卵は凍結保存することができます。卵管性不妊、男性不妊、免疫性不妊、原因不明不妊、子宮内膜症の方に有効とされています。
顕微授精
乏精子症や精子無力症では、精子が卵子の中に入っていけず受精できないことがあります。体外受精を行うと受精の有無が確認でき、受精しない場合には顕微鏡で見ながら精子を卵子の中に注入し受精させること(卵細胞質内精子注入法)ができます。また、無精子症の場合は精巣または精巣上体から精子を採取して顕微授精を行い、受精させることができます。


不妊治療と働く女性をとりまく社会

治療と仕事の両立は?サポート制度は?

晩婚化・晩産化が進む日本では、不妊症に悩む方が増え続けています。不妊症は、働く女性にとって退職の直接的な要因となり得る問題で、当事者のみならず、企業にとっても貴重な人材を失う可能性があるものです。
「NPO法人Fine(ファイン)」が、仕事をしながら不妊治療を経験したことのある、もしくは考えたことのある男女に行った調査では、実に95.6%の方が仕事と不妊治療の両立に難しさを感じたと回答しています。体調により治療日が決まる不妊治療はあらかじめ通院の予定を立てることが難しく、また必ず結果が得られるものではないため、上司や同僚に相談しにくい問題でもあるようです。
一方で、不妊症に悩む方を支援する制度も広がり始めています。広島県では、不妊検査から一般不妊治療(人工授精まで)を行っている方を対象にした「広島県不妊検査費等助成事業」と、体外受精・顕微授精を行っている方を対象にした「特定不妊治療支援事業」(※)の2種類の助成制度があり、令和3年度からは不育症検査費用の一部を助成する「広島県不育症検査費助成事業」もスタートしています。また、令和4年4月からは不妊治療にかかる経済的負担の軽減を目的に、一部の不妊治療が保険適用となります。
この他、広島県では「不妊専門相談センター」や「こうのとり基金」を設け、不妊や不育に悩む方に対して細やかな支援を続けています。こうしたサポート制度の拡充と企業による職場への啓発、そこで働く人の「お互いさま」の風土づくりが、不妊にやさしい社会を実現する確かな一歩となっていきます。

(※)令和4年4月から特定不妊治療が保険適用となるのに伴い、現在の「特定不妊治療支援事業」は令和4年3月31日で終了します。ただし、助成制度から保険適用となる移行期に支障が生じないよう、年度をまたぐ1回分の治療については経過措置として助成金の対象となります。


両立が困難で働き方を変えたことがありますか?
働き方をどのように変えましたか?
出典:NPO法人Fine(ファイン) https://j-fine.jp/
「仕事と不妊治療の両立に関するアンケートPart2」(2017年実施)より


広島には、不妊をサポートしてくれる機関や基金があります。

広島県不妊専門相談センター


広島県こうのとり基金


助成制度について知っておこう!

広島県不妊検査費等助成事業


広島県不育症検査費用助成事業


特定不妊治療が保険適用になります


広島県健康福祉局子供未来応援課


不妊治療への支援は広島の企業にも広がり始めています。

2021年10月、オタフクソース株式会社では、不妊治療を支援する制度が新設されました。これまでも、時間単位年次有給休暇、フレックスタイム、テレワークなどの制度で社員一人ひとりが多様な働き方を選択でき、ライフワークバランスを実現できるよう支援してきた同社。不妊治療中の社員もこれらの制度を利用していましたが、治療にかかる日々の精神的・身体的な負荷を軽減するため、また一定期間、治療に専念できる環境を整えるため、この度の制度新設に至りました。
担当の人事課・井山朋子さんは「社員一人ひとりが活き活き働くために、会社として何ができるかを検討し、毎年制度を見直ししています。社員へのヒアリングや不妊治療などの学びを通じ、多くの人が不妊治療に向き合っていることを知り、支援制度を新設しました。個人の性別やプライベートの事情にかかわらず、社員が安心して笑顔で働けるよう、今後も取り組んでいきたいと思います」と話します。
男女共同参画推進事業者表彰や、えるぼし企業認定、くるみん認定など、性別に関わらず働きやすい環境整備を進めるオタフクソース。不妊治療への理解と支援は、より一層働きやすさを後押ししそうです。


オタフクソースの制度

「ケア休暇」取得

不妊治療(男女ともに)、生理による体調不良(女性のみ)を理由に、月1日の特別休暇(有給)を付与。1時間単位の取得も可能。


短時間勤務

不妊治療を理由に、勤務時間を6時間ないし7時間に変更可能。


休職事由

不妊治療を理由に、授かろうとしている子一人に対し、1回休職可能。休職期間は就業規則に則り、(他の事由と同様)勤続年数に応じて、3ヵ月から最大1年6ヵ月(無給)まで取得可能。