働く女性の本音_vol.107_世武裕子さん｜広島の働く女性の情報サイト『tomato-web』

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世武裕子さん
●シンガーソングライター／映画音楽作曲家

■プロフィール／葛飾区生まれ、広島市在住。エコールノルマル音楽院映画音楽学科を首席で卒業。パリ、東京にて短編映画制作に携わったのち、『家族X』で長編デビュー。以降、映画やTVドラマ、数多くのCM音楽を手掛け、22年は映画『Pure Japanese』、『女子高生に殺されたい』や、WOWOWドラマ『椅子』などの映画・ドラマ音楽を担当。23年2月には映画『エゴイスト』が公開された。また、シンガーソングライターとしてもピアノ弾き語りアルバム「あなたの生きている世界1&2」を4/26にCDリリース。東名阪でアルバムリリース記念弾き語りライブを開催。広島テレビ「テレビ派」にコメンテーターとしても出演中。

生みの苦しみはない。それは自分との戦い。
今は業界のため、知らない誰かのために。

４歳で作曲を始め、小１ですでに映画音楽作曲家になると決意（きっかけは映画『幽幻道士』！）。仏で映画音楽を学び、これまで映画、ドラマ、CMなど多くの映像作品のための音楽を生み出してきました。実は曲の作り方が大きく異なる映画とドラマ。数本分の脚本と俳優のイメージのみで作曲するドラマと異なり、世武さんが得意とするのは「当て書き」と呼ばれ、映像ができている状態で俳優の仕草や尺、場面に合わせて作曲する方法。このことは業界でも知られているので、最近ではドラマのオファーも当て書きで来るそうです。そんな世武さん、作曲にあたっては、出演俳優のことを入念に調べ、過去の出演作を鑑賞。肉体、仕草、声…それらをしっかり知った上で「この人ならこの役をこう演技する」を具体的に推測します。「音楽は雰囲気で作れてしまうから怖い。そこには落とし穴もあるし、いつも似たような音楽を雰囲気だけで作っていても仕事として楽しくない」。論理的に学んだ後に解放するという表現方法。まるで俳優の役作りのように没入し、自らを苦しめることも珍しくありません。

それでも、自分の苦しみは自分との戦いだから問題ない、と世武さん。それよりも「クリエイティブな現場だから無理して当たり前」的な業界の働き方こそ変えていかねばならないと強く訴えます。仏では、撮影後の作業全般を行うポストプロダクションの役割こそが映画の良し悪しを決めるとされ、そのため作り手の生活がしっかりと守られています。日本でも芸術とそこに携わる人が守られるよう、そしてこうした声が届けられる立場になれるよう、個人としてのキャリアを積み上げる戦いを、彼女は続けています。

シンガーソングライターとしても活躍中の世武さん。映画音楽と同じ濃度で取り組む歌い手としての活動について、彼女はこう語ります。「街の中に溢れている音楽は、だからこそ受け身の人にも届く。そこに言葉を乗せた歌は、会ったことのない人の考えや人生にふと寄り添い、聴いた人がよりよく生きていくきっかけになるかもしれない。そのために歌う、それが私のライフワーク」。２１年、愛するカープのある広島に移住。東京と同じように仕事はできなくても、この街が大好きなのだと笑います。そして彼女の曲や歌は、これからもこの街で生まれていくのです。