働く女性の本音_vol.98_長村 香澄さん

野球が好き。カープが好き。
このすばらしいスタジアムが好き。

階段を上がった先に広がる旧広島市民球場の開放感。３歳でその虜になった少女はすぐに野球が好きになり、中学からはソフトボールに打ち込みました。将来はスポーツ関係の仕事に就くと決めたのもその頃。２０２２年春、憧れだった広島東洋カープに入社。できるだけグラウンドに近い場所で働きたいと熱望し、女性唯一のグラウンドキーパーとなりました。夢のような気持ちで初めて足を踏み入れたグラウンド。「とは言っても仕事なので意外と冷静でした（笑）」と振り返ります。

主に担当するのはマウンドの補修作業。ピッチャーマウンドには傾斜など細かい規定があり、試合で削れた粘土入りの土を水平器を用いて規定通りに直していきます。試合中もベンチ裏に待機し、３、５、７回が終われば整備。延長になれば９回裏にも整備し、雨が降るとシートを広げるなど、試合展開や天候によって動き方も変わってきます。そうした中で毎日〝同じマウンド〟を作らなければならない作業。だからこそ試合に勝つのはもちろん、エラーのない試合にはやりがいを感じ、イレギュラーがあれば「地面が削れているのでは…」とすぐに心配になってしまうそう。

また、補修作業以外に、練習の準備や道具の管理なども仕事のひとつ。無事に試合が終われば、そこから２時間かけてグラウンドを整備し、試合のない日は普段目の行き届かないような場所も重点的にチェックします。「男性でも重いと感じる物を持つこともあり、そうしたときには男女差を感じますし、力仕事、体力勝負だと思います。でも、好きでやっている仕事なので苦ではありません。なにより野球が、カープが、メジャー球場のように魅力的なこのマツダスタジアムが大好きですから」。最近は他の球場のやり方も気になるようで、学生時代に足繁く通った甲子園も、いまは高校野球より阪神園芸（※）の仕事ぶりに目が行きがちなのだと笑います。

「変わらない作業を行なっていく中で、だからこそほんの小さな土の削れも見逃さず、情熱を持ってこだわった仕事をしていきたい」と話す長村さん。目の前の小さな作業が選手のためになり、それがファンのためになるのだと続けます。もう気楽に試合を観れなくなったこと、スタジアムグルメを食べられなくなったことに寂しさはあるものの、カープへの情熱は一層赤く燃え続けています。

（※）甲子園のグラウンド整備を担当する会社